14C年代測定について
日本大学年代測定室
元教授 小元 久仁夫
1.はじめに
自然界に放射性炭素1)(14C)が存在することは予測されていたものの,通常の炭素(12C)
と比べて,ごく微量しか存在せず,かつ微弱な放射線しか出さないため確認が遅れた.
1948-1949年に,シカゴ大学の Willard Frank Libby (1909-1980)と彼の教え子達である
James R. Arnold と Ernest C. Andersonらは,日夜実験につぐ実験を重ねて,ついに14Cを
正確に検出し年代を決定する方法(radiocarbon method of dating)を確立した.
この手法は,考古学をはじめ正確な年代を必要とする学問分野で,次第にその有用性が
広く認められるようになった.その後新技術が導入され,世界各地で測定法の改良が行わ
れてきた.
その結果,今日では14C年代が多岐にわたる研究分野で使用され,科学の発展に大いに
寄与している.このように,14C年代測定法の生みの親である Libby の業績は全世界的に
高く評価され,1960年12月 Libby はノ−ベル化学賞を授賞した.
1) 14C:Radiocarbon:通常の炭素−たとえばダイアモンド,石墨,木炭など−の質量
数は12(12C)である.その兄弟分にあたる同位元素として,13Cと14Cがある.兄弟と
いえば14Cが12Cから誕生したように思われるかもしれないが、後述のように14Cは14N
から誕生し、5,730年の半減期を経てふたたび元の14Nに戻っていく。
なお14Cの存在比は,12Cに対し,10-12ときわめて少ない.
2.原理
14C年代測定は,自然界にごく微量存在する14Cの半減期2)を利用した年代決定法である.
14Cは大気圏の上部で宇宙線と窒素原子(14N)との核反応で生成される.そして直ちに酸素
と化合し二酸化炭素(14CO2)となり,大気の大循環によって通常の二酸化炭素(12CO2)と
ともに大気圏内に拡散し,また海水に吸収され炭酸塩となる.
生物は,二酸化炭素を呼吸作用で取り入れ,あるいは14Cを含む有機物を栄養源として
体内に取り込み成長している.生物が死亡すると,生物の呼吸作用も栄養分の摂取も停止
し,生物体内に蓄積された14Cは半減期ごとにβ線を出して(β壊変)規則正しく減少していく.
そこで生物の死後,体内に残存している14Cと,現在の生物が体内に有する14Cの割合が
分れば,その生物の死亡年代3)を正確に決定することができる.
2) はじめに存在した放射能が1/2に減少するのに要する経過時間:14Cの場合は,Libby
によると5,568年である.ただし正確には,5,730年であることが明らかになっている.
3) 14C年代は,1950年を基準年(0)として,これより遡る年代が実験室の試料番号とともに
とともに示される.例:18,560±250y BP(NU-1234).なお±の後の数値は測定値の統計
誤差(±1σ)であり,NUは Nihon University で測定したことを表わす全世界共通唯一の
実験室コ−ドである.
3.方法
14Cは,半減期(5,568年)ごとにβ壊変し,正確に1/2,1/4,1/8,1/16と減少していく.
いま東京郊外の団地の造成現場で,地中に埋もれていた遺跡が発見され,焚き火跡があった
としよう.そこにもしも木炭が見つかったとすれば,その木炭に含まれる14Cの存在比(遺跡
が立地していた当時と現在の14C濃度の割合:原子比でもよい)が分れば,その遺跡が使用さ
れた年代を決定できる.
その原理は,次の様に説明できる.たとえば現在生きている生物が体内に128個の14Cを
もっているとしよう.地中から発見された木炭や古生物(貝化石)の14Cを測定したところ,
64個残っていたとしたら,その木炭が樹木であった年代や古生物(貝)の死亡年代は、丁度
5,568年前であり,もしも32個残っていたら11,136年前ということになる.
14C濃度(または比)を測定するには,知りたい年代を指示してくれる試料を採取する
ことから始まる.よく使用される試料として,地中に埋っていた木炭,木片,泥炭,埋没土
壌,貝殻,さんご,骨など4)がある.これらの試料を化学処理し,次の(1)〜(3)のいずれか
の方法で年代決定を行う.すなわち,試料を化学処理し(1)二酸化炭素(CO2)やアセチ
レン(C2H2)のような気体を生成し,その中に含まれるβ線を比例計数管で測定する気体
計数法か,あるいは(2)ベンゼン(C6H6)やメタノ−ル(CH3OH)を生成し,これに
シンチレ−タ−溶液を加え,液体シンチレ−ション・カウンタ−でβ線を測定する液体計数
法,そして(3)14Cと13Cや12Cの存在量(比)を加速器を使用して直接測定するAMS
(Accelerator Mass Spectrometry)法のいずれかである.これらの方法には,それぞれ
一長一短がある.
最新のAMS14C年代測定技術を駆使すれば,わずか 10μg の花粉の年代を,あるいは
南極大陸の氷を約2kg実験室に持ち帰れば,その年代を決定できるようになった(小元、
2002 参照).
現在,日本大学年代測定室では,(1)および(2)の方法で14C年代測定を行っており,
約6万年前までの年代決定が可能である.
4) 紙,布切れ,漆,氷,海水,石筍なども測定できる.
4.応用
Libby らは,14C年代の信頼性を確認するため,まず古代エジプトの遺跡で年代既知の
木材を試料として年代測定を行った.その結果,推定年代と測定年代は統計誤差の範囲
で一致し,その信頼性がきわめて高いことが実証された.その後,ワシントン大学第四紀
研究所の Minze Stuiver 教授らの献身的な努力により,14C年代と暦年代間の精密な補正
年代が5〜10年単位で約1万年前まで明らかにされた.またそれ以前の年代はウラン
シリ−ズ年代による校正が行われた.1980年代以降,測定にコンピュ−タ技術も取り入れ
られ,測定値の信頼性はさらに向上して現在に至っている.
14C年代は,現在次のような学問分野で利用されている.
(1)考古学:遺跡の年代決定.古環境の復元,(2)自然地理学:環境変遷,地形形成年代
の決定および地形面の対比.地形変化速度の決定,(3)第四紀地質学:堆積物の年代
決定,(4)地震学:活断層の年代決定,地震の活動時期の推定,(5)火山学:火山の噴火
年代の決定,(6)生態学:古環境(植生)の復元,(7)雪氷学:氷河や氷床の年代決定,
(8)海洋学:海水準変動,海水循環,(9)地球物理学:宇宙線の強度変化,(10)歴史学:
古文書の信憑性の確認,(11)その他:古文化財の鑑定,犯罪捜査など.
日本大学文理学部地理学科では,専門科目に『自然地理学特別講義T』や『自然地理
学実験T』を設置し,授業の一環として14C年代測定法をカリキュラムに入れている.
また測定結果は、地理学教室や地球システム科学教室などの教員や学生・院生によって
各種の研究および教育に活用されている.
5.外部試料の測定
わが国では14C年代測定を行っている機関が少ないため,大学・研究所・企業各社・
官庁・文化財関係機関・博物館などから年代測定の要望が強い.このため,委託研究や
各種の研究費による14C年代測定を行っている(委託研究の項目参照).
年代測定結果は,内外の学術誌および報告書に,日本大学で測定されたことを明記の
上発表された.
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